デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)は株式会社博報堂DYホールディングスのグループ企業として、デジタルマーケティングにおける広告を基点としたさまざまなサービスを提供しています。広告枠の仕入れ・販売、コンサルテーションからプランニング、運用、結果の解析までをトータルに支援する広告取引関連サービスに加えて、メディアの特性を活かしたクリエイティブ制作、豊富なデータと高度なテクノロジーを掛け合わせたソリューション開発・提供や、グローバルプロモーションの支援などを行っています。
今回はDACのデータ解析部に所属する2名の方に、業務内容や会社の特徴について伺いました。

川崎 達平(Tappei Kawasaki)
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 データサイエンティスト

五百井 亮(Ryo Ioi)
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 データサイエンティスト
この記事の目次
研究開発に近い業務を志向して企業選び。希望業務のデータサイエンティストとしてDACに入社
統計解析・機械学習・自然言語処理・深層学習。さまざまな技術を用いてマーケティング戦略の高度化や広告配信の最適化支援
大学と現在の業務を結ぶ鍵は「自ら問題設定をする」ことと「幅広い知的好奇心」。データサイエンスで広告業界を支える
研究開発に近い業務を志向して企業選び。希望業務のデータサイエンティストとしてDACに入社
── はじめに、学生時代に興味のあった分野や研究内容について教えてください。
川崎私は大学入学後に履修した「生命科学」の授業内容に惹かれ、学部時代は生物学を中心に学びました。その後、特に神経科学における「意識のメカニズム」に興味をもち、その根底にある神経回路のダイナミクスのメカニズムを研究してみたいと思い、大学院の研究室を選びました。博士論文の研究は発生期における神経回路活動のメカニズムに関するもので、神経活動のパターン解析などを行っていました。
五百井学部時代は語学が好きで、言語学の研究室に在籍していました。学部の卒業論文で外来語の受容について研究したとき、言語の内在的な性質だけでなく社会背景を考慮する必要に迫られたことから、多彩なアプローチで社会の事象を扱える社会学に魅力を感じて大学院に進学し、都市の人口と産業に関する研究をしていました。
── ありがとうございます。学生時代の就職活動ではどのような分野の企業に応募しましたか?
川崎当初はこのまま好きな研究を続ける道を考えていましたが改めて自分が何を目指したいのかについて考えていく中で、データサイエンス関係の企業で働いている人に会う機会やインタビュー記事を読み、研究の中で使ったデータサイエンス的手法をもっと別の分野にも応用してみたいと思うようになりました。アカデミア以外にも研究の道はあるということに気が付き、博士後期課程(博士課程)3年の春頃に企業への就職を考え始めました。データを解析する仕事ができる企業を中心に企業研究を行い、IT・コンサルティングファーム・金融のクオンツなどの企業を検討しました。特に機械学習やデータ解析の分野では、大学よりも企業のR&D部門の方がデータ量も応用先も豊富で、最先端の技術に触れることができそうだと思ったことも企業に就職する決断に至った背景にあります。
五百井私の場合、学部では語学、大学院では社会学と、興味が移り変わるタイプなので、アカデミアで一つの分野を究めるよりも企業で次々と新しいことに挑戦するほうが向いていると考えました。就職活動をする中で、若いうちからさまざまな業界や業種の仕事に関わることができるコンサルティング業界の仕事に興味を持ったほか、当時「手に職をつけたい」という思いを持っていたことからIT業界にも漠然と興味を持っていました。結果としてシンクタンクやリサーチ会社からも内定をいただいた中で、調査や分析をするだけでなく、システムという動くモノを作れる点に魅力を感じ、IT系コンサルティングファームへの就職を決めました。
── その後、DACに就職(転職)を決めたきっかけについて教えてください。
川崎大学院生向け就活イベントをきっかけにDACを知りました。当時はアドテクや広告業界について何も知らない状態でしたが、イベントでデータ解析部の方の話を聞き、人間の嗜好や感情が直接行動に表れて可視化されるのがインターネット広告だと知りました。さきほどご紹介した私の研究内容でも触れましたが、もともと人の意識や行動に興味を持っていたため、私の研究内容とリンクする業界かもしれないと感じました。選考に進み、最終的にDACに就職を決めた理由は、他に内定をいただいた企業では入社後にR&D業務に携われるかどうかはアサインされるプロジェクト次第で配属リスクがある一方、DACではデータ解析を行う部署への配属希望を前向きに聞いてくれる環境があったことが挙げられます。DACではビジネスコース(総合職の位置づけ)とテクノロジーコース(システムエンジニア職もしくはデータサイエンティスト職)を選ぶことができたので、私はテクノロジーコースのデータサイエンティスト職を希望して選考を受けました。またもう一つ、DACに決めた理由として、選考過程で会った社員を通して会社の雰囲気や考え方が自分と合いそうだと感じたことも大きいですね。会社の文化や働く人との相性も就職において重要な要素だと思います。
五百井私は新卒で入ったIT系コンサルティングファームでは技術や経験が着実に蓄積されていく実感があった一方で、今後のキャリアを見据えたときに、仮説を立てデータを使って検証するR&Dの仕事をすべきではないかと思ったのが転職活動を始めたきっかけです。その中でDACのデータサイエンティストは私のやってみたい仕事や環境があり希望に合致していました。なおかつ前職のITコンサルで培ったエンジニアリング能力も活かすことができるため、自分の経験・能力をベースに業務の幅を広げることができると思い入社を決めました。前職で開発経験を積んでいたのでプログラミングについて大きな不安はありませんでしたが、データサイエンス関連の知識は学生時代に統計学の講義を履修した程度だったため、入社が決まった直後から微分積分や線形代数の教科書を読んで数学の基礎を固める努力をしました。
統計解析・機械学習・自然言語処理・深層学習。さまざまな技術を用いてマーケティング戦略の高度化や広告配信の最適化支援
── お二人ともDACでデータ解析の部署に所属されていますが、現在はどのような業務をされていますか?
川崎私は機械学習や統計解析を用いてユーザー行動の解析や広告配信のモデリングなどを行っています。具体的にはベイズ統計の枠組みを利用して、あるユーザーがどのような属性を持っているか推定するモデルを開発・改良し、広告のターゲティング配信に活用しています。またタイやインドネシアの現地法人向けのプロダクト開発やプロジェクト管理なども行っています。
五百井機械学習やデータ処理技術とDACが保有するデータを組み合わせ、広告配信やマーケティングに役立つデータ・アルゴリズムを開発しています。最近では深層学習と自然言語処理の技術を応用して内容の類似するURLを推定するモデルを開発し、広告プランニングや配信先の設定で活用しています。また、2020年4月からはマネージャーとしてチームビルディングにも取り組んでいます。
── データ解析部の業務の魅力や、DACの特徴について教えてください。
川崎広告業界についてはDACに入社するまでほとんど知りませんでした。インターネット広告は人間の嗜好やそれに基づいた行動がはっきりと現れるので、日々色々な発見があり新鮮さを感じています。データ解析に関して言えば、短期間で新しい手法やアルゴリズムが公開される進歩の速い分野なので、アカデミアから来た人にも魅力的な分野だと思います。また大学の基礎的な研究と比べ、実際にどう使われるべきか、どんな人が使うのかなど、実務に寄り添って考えながら進める点も新鮮で面白いと思います。
会社の特徴としては、国籍をはじめさまざまなバックグラウンドを持った方がいることだと思います。データ解析部以外の社員とも交流する機会が多く、さまざまな考え方に触れることで自身の視野が広がって面白いですね。私は博士課程に進学したので長く大学にいましたが、DACで働き始めてからはそれまでとは違った考えや志向を持った方々と関わることができ、業務に限らず日々刺激を受けています。
五百井人材について僕も全く同じ印象で、さまざまな高い専門性を持つ人が集まりそれぞれの強みを活かしながら切磋琢磨しているところが魅力です。大学の専攻分野も数学、化学、地震学、金融、自然言語処理、コンピュータビジョンなど多岐にわたり、各メンバーがそれぞれの力を発揮しながら仕事をしています。インターネット広告の成長という同じ目標を持ち、また、全く異なる視点から同じ広告ビジネスを捉えていて、それが新しいアイデアが出るきっかけになることもあります。
大学と現在の業務を結ぶ鍵は「自ら問題設定をする」ことと「幅広い知的好奇心」。データサイエンスで広告業界を支える
── 学生時代に学んだこと・経験で、現在の業務に役立っていると思われることについて教えてください。
川崎博士課程の研究では自分で問題設定し、関連する論文を調査し、課題を切り分けて検証していくことが必要でした。現在の業務の中でも機械学習のモデルを作るにあたって、学生時代と同じように問題設定をして課題分解する作業が必要なので、当時の経験が役立っています。数値解析のためにプログラミングをしていたことも結果的に今役立っているのではないかと思います。また、論文や文献を体系的に調査する力も、常に最新のテクノロジーをキャッチアップする必要がある現在の業務に、とても役立っていると思います。
五百井統計や機械学習、プログラミングができても、適切な問題を設定できなければビジネスに有用なアウトプットはできません。そのためアウトプットを見据えた問題設定は非常に重要だと思っていますが、問題を解決するだけでなく執筆過程で自ら問題を設定することが求められる研究の経験がビジネスでも活きていると実感しています。また、よい解析結果が出ても報告する相手に理解されなければ仕事が進まないため、学生時代の長編の論文をまとめた経験も、自分の考えを言語化して伝える上でとても役に立っています。さらに、大学の勉強や研究は独力で進めなければならない場面が多く、この経験がデータサイエンスや業務知識で未知の分野をキャッチアップする際に活かされています。
── 最後に、学生時代にやっておくべきことや、志望する学生に対してメッセージをお願いいたします。
川崎幅広く好奇心を持つのは大切だと思います。勉強にせよ趣味にせよ、色々なことに積極的にチャレンジし経験しておくと、その後の人生に厚みが出るのではないでしょうか。その分野の最先端を走っている研究者や最先端の文献、知識などに容易にアクセスできるのは学生の特権ですので、研究に直接関係のない分野の授業やセミナーであっても幅広く積極的に学んだことは今後必ず活きてくると思います。
また、一般的なイメージとして、博士課程に進むと就職活動で苦労する、と聞くことがあります。もちろん博士課程まで進学すると専門性の高さから、そのスキルを十二分に活かすことのできる企業も限られてきますが、近年では博士課程の専門性をきちんと評価してくれる企業も増えています。
広告業界は、今までは文系的な要素が多いように見受けられましたが、今やデジタルマーケティングが主流な中で、ブランド戦略やマーケティング戦略、クリエイティブ戦略などを考えるうえでもデータの視点から有効な施策を検討する重要性が日に日に増しています。文理横断で知識や経験が必要とされていますので、好奇心があって新しいことに興味のある人は必ず楽しめる仕事だと思います。
五百井私は、大学で履修した「アルゴリズムとデータ構造」という講義が強く印象に残っています。実は間違って履修登録してしまった授業でしたが、講義を受ける中で、初めて知る分野であり面白い内容だと思った記憶は今でも残っています。そして現在の業務では、アルゴリズムもデータ構造も見ない日はありません。将来、何がどこで役に立つのかを見通すことはできませんが、何気ない経験が活かされることもあります。自分の置かれた立場から生じるバイアスにとらわれず、知的好奇心のおもむくまま学ぶと良いと思います。
データサイエンス業界は日進月歩で、データサイエンティストは一生新しいことを学び続けなければならない職業です。私自身、他の優秀なデータサイエンティストに負けない自らの存在価値を日々自問していますが、データサイエンティストを目指すみなさんには、コアとなる興味分野・関心を持つと同時に幅広い知的好奇心を備えることで、自分にしか提供できない価値を追い求める姿勢を持ってほしいですね。
── 広告業界は多種多様な業界の顧客とコミュニケーションを取らなければならないので、幅広い知識や関心を持ち続け、学び続けることが重要な要素のひとつかもしれませんね。本日はありがとうございました。