株式会社GA technologiesは、「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」を掲げ不動産分野でテクノロジーを活かした事業開発によりユーザーに新しい価値を提供することを目指すPropTech(不動産テック)企業です。不動産情報メディア、不動産売買仲介、等の総合ブランド「RENOSY」を運営するほか、SaaS型のBtoB PropTechプロダクトの開発や、AIを活用した不動産ビッグデータの研究を行っています。
そんなGA technologiesのAI Strategy Center(以下、「AISC」)にて、AIなどの先進技術を用いて事業に貢献することを目指す福中公輔氏に、不動産業界やGA technologiesの特徴、ビジネスに踏み込んだ研究開発について伺いました。

福中 公輔(Kosuke Fukunaka)
株式会社GA technologies
AI Strategy Center(AISC)
部長・SeniorDataScientist
この記事の目次
統計学との出会いは、心理学における「目に見えない事象の測定」に対する問題意識
研究を社会で実装することを目指し、データサイエンス分野のコンサルタントに
自社でデータを取得・分析して、プロダクトに反映する。サービスを一気通貫で研究開発できる環境
研究開発では、研究力だけでなく開発力と企画力も必要
統計学との出会いは、心理学における「目に見えない事象の測定」に対する問題意識

── 大学院での研究内容と、その分野に興味を持ったきっかけを教えてください。
福中大学院での専攻分野は統計学です。統計学に興味を持ったのは学部生時代に心理学を学んでいた時です。心理学は心を対象にした学問で、一般的にはアンケートや脳波計などのツールを用いてヒトの心を数値化しますが、心理学を学ぶ中で学部生なりに「本当に対象者の心を正しく測定できているのか?」という問題意識を持ちました。その時期に統計学の授業に出会い、不確かなアンケート調査等を通じていかにして確からしく計測するか、という技術に興味を持ったのが最初のきっかけです。
その後、統計学に関する分野で研究をしていくことを志し、指導教員にも相談しながら検討した結果、当時として最も先端的な研究と思われた構造方程式モデリングという技術を知り、この分野で研究をすべく、大学院では早稲田大学で心理統計の研究室に進学しました。
── 博士後期課程(博士課程)への進学を意識されたのはいつ頃からですか?
福中学部生の時に統計学に興味を持った時から研究者を意識していました。ただ当時は博士号取得者の企業就職は一般的ではなく、当時の指導教員に相談した際も「博士課程に進んだら、大学の研究者として成功する以外に食っていく道はない」と言われたことをよく覚えています。不安はありましたが、大学院に進学して統計学や構造方程式モデリングの研究を進める中でさらに興味が深まっていき、研究者への想いは変わりませんでした。
── 博士課程在籍時の苦労はどのようなものがありますか?
福中研究は地理的な制約がなく、世界中の研究者が同じ土俵で成果を競っています。優秀な競争相手が多くいる中で「本当に自分が通用するのか?」といった恐怖心や、思うような結果が得られず限界を感じることもありました。一方でその直後にブレークスルーがあったりして、結果としては研究の魅力にのめり込んでいく過程の一要素だったと思います。
もう一つの大きなポイントは、自分の研究の価値が、研究を進めている時点では実感しにくいという点があります。例えノーベル賞を受賞するような研究成果でも、研究時点に遡って考えれば、その後、社会にどんな貢献ができるかどうかは未知数です。私は自分の博士論文がほぼ完成したときに、果たして自分の研究が認められる日が来るのか、社会の役に立つことがあるのか、という不安を覚えました。
研究を社会で実装することを目指し、データサイエンス分野のコンサルタントに

── その後、産業能率大学総合研究所に転職されていますが、先ほどの研究に対する不安も一因でしょうか?
福中そうですね。今でこそ、データサイエンティストを採用して自社でデータ解析を行う企業が増加していますが、当時は自分の研究分野であるデータ解析理論は社会でほとんど使われていませんでした。だからこそ、最先端の研究が社会に還元され、貢献しなければ研究している意味がないと考えるようになりましたし、また統計学やデータ解析などが様々な企業に求められる時代が来るのではないかとの思いもありました。
── 産業能率大学総合研究所ではどのような業務をされていたのですか?
福中企業をクライアントとして、データ解析を請け負うコンサルティングに携わっていました。クライアントから様々なデータを受け取り、分析をしてからその結果を納品するような業務もあれば、データ解析を活かしたくてもどこから手を付けたらよいかわからないようなクライアントの場合は一緒になって事業課題を考えたり、データ解析専門の部署の新規立ち上げに協力したこともあります。あるいは社内データサイエンティストの育成支援として、数年にわたるデータ解析研修を実施したこともあります。
自社でデータを取得・分析して、プロダクトに反映する。サービスを一気通貫で研究開発できる環境

── その後、事業会社である現職のGA technologiesに転職されていますが、何がきっかけだったのでしょうか?
福中約8年、産業能率大学で働いていましたが、次第に外部からの支援だと限界がある、という思いを抱くようになりました。データの解析結果や共同研究の成果が有効に活用されない例が多くあり、その要因は「納品した成果物の有用性が理解されていない」あるいは「人事異動などで担当チームのレベル維持が困難」ということが分かりました。課題の発見から分析をするだけで終わらせず、プロダクトやサービスへの社会実装にまで責任を持って推進できる環境がないと、せっかくの研究成果が活用されません。そのため事業会社など、内部からデータ活用ができる環境を求めて転職を意識し始めるようになりました。そのタイミングで、データサイエンティスト協会やFacebookでつながりのあったGA technologiesの橋本(現AISC General Manager)に声をかけてもらったのが最初のきっかけです。
── その後、興味がより深まったのはどのような点でしょうか?
福中データサイエンティストとして働く上で逆説的にはなりますが、データがほとんど無い世界だった、ということがまず挙げられます。統計学をフル活用したり、いわゆるビッグデータを扱いたいのであれば、デジタルマーケティングなど適した領域は他にあります。しかしそのような領域はデータ量が豊富で活用がしやすいことによって、すでに研究が多く行われており、ビジネスにも一定の「型」のような成功しやすいスキームが共有されています。結果としてデータサイエンティストにとっては新規開発が難しく、自身のキャリアとしてはそれ以外の領域を探していました。
同時にそれとは別に、産業能率大学在籍時に東京地下鉄株式会社(東京メトロ)様と共同研究を行った経験(産業能率大学HPへのリンク)も活かせるのではないかと感じました。いわゆるConTech(建設テック)の先駆けのようなものですが、簡単に言えばトンネルのメンテナンスにAIを活用していくというものです。それまでは作業員がトンネルの中を歩き、1メートル間隔で検査内容を紙に記録、事務所のPCで表計算ソフトに入力するといった作業が行われていました。それを改善する数理モデルやAIシステムの設計・開発を行うものです。不動産業界のデータにも似た部分があり、物件情報の書式が不統一だったり、物件情報が紙で管理されFAXで送受信されたりしています。このようなデータが無い世界にデータを創り出して分析・活用していくようなフィールドは、私のキャリア設計として望ましいもので、なおかつ過去の経験が活かせると考えていました。
── コンサルタントではない内部の立ち位置、またお話のあったデータの無い世界であれば、他の不動産関連企業を含め、様々な事業会社にも可能性はあると思いますが、最終的にGA technologiesに決めたポイントはありますか?
福中データ分析成果を社会実装する上で必要な「データドリブンなアプローチの有用性に対する経営者の理解」と「内部で完結する持続的な研究開発の体制」という二つを兼ね備えていたというところが大きなポイントです。
入社を決める前にGA technologies代表の樋口とも話をしましたが、テクノロジーやAIの活用について本気で考え、熱く語る姿が印象的で、このような経営者・経営層の理解ある会社で、僕も一緒になってデータドリブンな事業展開をしていきたいと思いました。
またそれを裏付けるように、GA technologiesの研究開発体制は全てが社内で完結しています。一般的にAIなどを導入した企業の多くは、データは自社で持っているものの、データ分析や分析したデータに基づくシステム開発は外注しています。それに対してGA technologiesではすべてが一気通貫で行われており、データを取得し、分析し、プロダクト反映まで社内完結しています。これは他社との違いとして特筆すべきポイントだと思います。
── それでは現在の業務について教えてください。
福中現在はデータを用いた営業効率化に取り組んでいます。顧客属性や興味の範囲などのデータを元に、より成果の見込まれる営業担当を割り当てるというものです。従来、営業担当は現場の過去の経験や直観、偶然に頼る部分が多かったのですが、それをAIで効率化できないか研究しています。
このテーマはあくまでデータドリブンな事業展開をAISCとして模索する中のひとつとして浮上したもので、単に個別の研究開発をするだけでなく、現場に根差し、他部署とも連携しながら課題を発見・検証をすることがミッションです。AIによる営業効率化も、自社プロダクトを洗いなおしたり、営業担当にヒアリングをしたり、日々泥臭い活動を積み重ねてきて設定しました。非常に難しい点ですが、単にヒアリングをしても解決すべき課題は出てきません。本人が意識していない課題を浮き出させる必要があり、そのためのプロトタイプを提供して実際に評価をしてもらうようなことも重要です。ビジネスに貢献できる課題発見のため日々試行錯誤を繰り返しています。
研究開発では、研究力だけでなく開発力と企画力も必要

── GA technologiesのAISCで働く上で必要なことは何でしょうか?
福中AISCは研究開発部門に当たります。ただし、大企業の研究開発部門と異なるのは、研究開発以外のスキルも求められる点でしょうか。もちろん、研究力の育成は行っています。しかしビジネスに直接的に貢献できる研究者集団を目指しているので、研究しているだけ、分析しているだけでは足りません。特にデータサイエンスの領域では、今後はプロトタイプなど「形にする力」が求められると考えています。データを分析して終わりではなく、それを他人が評価できる形に実装するスキルを身に着けてもらうため、AISCでは開発の研修プログラムも行っています。加えてビジネスとして成果を上げるためには、必要な課題に目をつける企画力も求められます。研究力をベースとして、アイデアを形にする開発力、ビジネスとして成果を最大化する企画力、この三つのスキルを重視した人材育成を行っています。
── 研究力・開発力・企画力を兼ね備えた人材になるために必要なマインドセットは、どのようなものでしょうか?
福中まず、好奇心のような何かを突き詰める研究者としての資質は大前提として必要です。もう一つ重要なのは、コミュニケーション力だと思います。様々な技術を組み合わせてプロダクトを創り上げていくので、他の技術の専門家とも議論をする必要があります。また専門家として、研究のことも知らない、データサイエンスのことも知らない、非専門家の方々と上手くコミュニケーションを取りながら理解を得て、連携しながら業務を推進していくことが求められていると思います。
── データサイエンス分野での業務を志望される方で、どのような方がGA technologiesに向いていると思いますか?
福中データ解析を請け負うコンサルタントと事業会社のデータサイエンティストの一番の違いは、データの幅です。データ解析コンサルティングの場合は様々な業種や企業の特徴あるデータに触れることができますが、事業会社では自社の領域、例えばGA technologiesでは不動産・金融・建設などの事業に関わるデータを扱うことになります。そのため、会社の事業領域のビジネスに興味を持てることが前提になると思います。
さらに事業会社では分析・報告して終わりではなく、かつ大企業のように研究開発だけの担当ではありません。ヒアリングや調整で他部署と粘り強く連携したり、より踏み込んでプロトタイプを作ったり、幅広く業務を推進する必要があります。そのため、ただデータ分析をするのが好きというより、モノを形にするのが好きな人、泥臭い業務も苦にならない人に来てほしいと思います。
── 最後に学生にメッセージをお願いいたします。
福中学生の本分として、卒業論文・修士論文・博士論文の研究を真剣にやってほしいと思います。先ほど研究力以外にも開発力や企画力、他部署とのコミュニケーションなど様々な能力が求められるとは言いましたが、研究開発の部署で働く上で一番大切な基礎は「研究力」です。インターンの経験や専門外の知識を身に着けるのも良いですが、それ以上に自分の研究にしっかりと向き合い、挑戦することに注力してほしいと思います。その研究経験が、後に続くキャリアの出発点になると考えています。
── 理論研究、データ分析コンサルティング、事業会社でのデータサイエンティストと一連のキャリアに関する興味深いお話、ありがとうございました。