株式会社リバネスは社員の約半数を博士号取得者が占める、科学技術分野における知識プラットフォームの企業です。「科学技術の発展と地球貢献を実現する」を企業理念として、研究者の知識と市民の認識の間にある溝を埋め、科学・技術を「わかりやすく伝える」サイエンスブリッジコミュニケーションの考え方で社会の課題を解決するべく創業されました。現在は小中高での科学教育をはじめ、大学・大学院での理系学生・研究者の育成、企業の研究開発や技術系ベンチャーの支援などを行っています。
リバネスにて、大学向けにトランスファラブルスキル研修プログラムの提供、海外に進出する日本のテック系スタートアップ企業の支援、自社メディア『incu・be (インキュビー)』の企画・制作など、多岐に渡る業務を担う伊達山泉氏に、リバネスとの出会いや業務の魅力について伺いました。

伊達山 泉(Izumi Dateyama)
株式会社リバネス
人材開発事業部
この記事の目次
科学技術分野で「何かプラスになるもの」を世に送り出す。その「何か」を探し続けたことが原点
自分の重視するキーワードを軸に卒業後の活動場所を探し回って、リバネスに出会った
熱を持ってやり続けられる仕組みを「自分で創り出す」ことがリバネスで働くこと
科学技術分野で「何かプラスになるもの」を世に送り出す。その「何か」を探し続けたことが原点

── まず、大学に入る前に興味を持っていた分野について教えてください。
伊達山科学技術分野に興味を持ち始める前、中学生の頃の好きな科目は英語でした。「外国の人と仕事をしたい」「話をしたい」といった海外に対する単純な憧れが原点です。そんな中で、英語の暗唱大会に参加しました。その大会で「あなた達が英語を身に着けたら、その英語力をつかって何を伝えたいですか?」と言われたのが印象に残っています。それからは、単に「英語力の上達」ではなく、「英語を使って実現したいこと」を考えるようになりました。その後に生命科学に出会ってからは、科学技術分野で何かプラスになるものを世に送り出す、そのときに英語がツールとして役立てば良いな、という位置づけになりました。今でも「海外との繋がり」は私が仕事を通じて実現したいことに関する一つのキーワードですし、サイエンスで世界を結びたいと考えるようになった原点になっていると思います。
── 大学院での研究内容やそれを選んだ理由について教えてください。
伊達山大学院では、薬が作用するしくみを哺乳類の細胞を使って研究する分子情報薬理学という分野の研究室に所属していました。広く言えば生物系ですが、興味を持ったきっかけは高校3年のオープンキャンパスで農学部の見学をしたことです。当時は生物学に興味がなかったのですが、友達が農学部を見に行きたいというので付き添いました。ちょうどゲノム解析が流行っていた時期で、研究者の方がその説明をしてくれました。ゲノム解析といっても現在ほど解析スピードは速くないので、「国際的に分担して一部のパートを日本の研究室が担っている」という話があり、広く海外とも繋がっているプロジェクトという点に魅力を感じました。また「耐性菌などの問題に対してゲノム解析を通じて根本的な解決策がないか探っている」という話も聞いて、高校までの生物の授業で感じていた「暗記する」分野という印象が変わり、新しい仕組みを模索する科学的なアプローチに面白さを感じました。
その後はアメリカの大学に進学して、生物化学を専攻していました。学部卒業後に日系のタイヤメーカーに就職しましたが、科学技術分野で今までにないプラスの価値を生み出せるようになりたい、研究してみたいと強く思うようになり、改めて大学院に進学することにしました。
その研究分野を探している際、たまたま手に取った「大腸菌」というタイトルの本の中で、大腸菌は単にクローンによって増殖していくのではなく、実は大腸菌にも雌雄の性があり、接合というプロセスを通して雄から橋のようなものがかかって染色体を雌に移したり、栄養量に応じてコミュニティの菌数を減らして少数でも確実に遺伝子を残すための戦略を取ったり、まるで人間のように組織的なコミュニケーションをとっていることやその解明に関わった研究者の様子がいきいきと描かれていました。そして、私も大腸菌のような単細胞生物のコミュニケーションのメカニズムを解明したいと思うようになりました。簡単に表現すれば、細胞同士のコミュニケーションは、ホルモンなどの化学物質の分泌や受け取りを通じて成立します。これは大腸菌のような単細胞生物の集団としてのふるまいだけでなく、動物など多細胞生物の中で様々な種類の細胞が総体としてどうふるまうのか、にも共通しています。でも、実はまだまだわかっていないこともたくさんあります。私が所属していた研究室では、細胞表面にあるのに見過ごされていたアンテナのような細胞器官、一次繊毛(いちじせんもう)の働きについて研究していました。
── 学部卒業後に一度就職されたのですね。その際の勤務経験で、後から振り返って役に立っていることはありますか?
伊達山元々、大学院進学への気持ちを持っていたのですが、すぐに進学せずに就職したのは「学校」以外の場所にも面白いと思える活動があるかもしれない、と思ったことが背景にあります。実際に働いてみると、学んで得られる知識だけが仕事に役立つ道具ではない、と感じました。人と交渉してプロジェクトを進めていくことや、どう進めれば相手が仕事をしやすいのか、など、自分の気付きから仕事の仕方を変えていくスキルがある実感がありましたし、未熟だと感じていた英語力も仕事という責任ある環境の中で活用することで、十分に仕事に貢献できるんだ、と自信を得ることができたと思います。
また業務経験を通じて企業をより多角的に捉えることができるようになったと思います。タイヤ業界の内幕が面白くて、どのようにタイヤが製造されているのかに始まり、タイヤの化学的・工学的な面だけでなく生物的な分野、ゴムの木に関する基礎研究など、知らなかった世界を見ることで、タイヤとの関わり方も色々あるということを学びました。これはどの企業でも同じことで、「○○系だから自分とは関係がない」などと先入観で排除するのではなく、まだ気づいていない面白さを積極的に探したり、どうすれば自分が価値を提供できるか、を考えたりできるようになったと思います。
自分の重視するキーワードを軸に卒業後の活動場所を探し回って、リバネスに出会った

── 大学院に進学し、研究を進める中で得た発見やスキルは何がありますか?
伊達山物事を分解して整理して、何が問題なのか、何を解決したいのかを考える力。さらにそれを計画的に進める力と粘り強さが身に着いたと思います。博士1年目、2年目でなかなか成果が出なかった時期がありました。実験は進めているものの、条件を最適化できず、研究成果として、何かを示唆できるようなデータを得られませんでした。指導教員には「愚直に実験を進めていれば必ず成果は得られるが、最短距離を心がけるように」という点を常に言われており、成果の得られやすい方向へ修正してはどうかと提案されることもありました。それでも諦めきれず継続して、最終的には論文を出すことができました。指導教員から「伊達山が積み重ねた試行錯誤があったからこそ得られた結果だね」と言われたときは涙が出るほど嬉しかったです。
その経験は今でも活かされていると感じていて、表現を変えれば「長い目で見て必要だと思うことを積み上げる」ということです。業務を進める中で本当にやりたいことがあっても、現時点では実現できないことがあります。その場合は、一つのプロジェクトで完成させようとせず、色々な場面で種まきをしながら、育てていくイメージです。そうすると、プロジェクトが終わってしばらくして振り返ると、芽が出ていることがあり、自分が真に解決したいことを目指すことの重要さ、情熱の大切さを感じます。これは「頑なになる」ということではなく、自分を信じて色々な形でアプローチしていく、ということだと思います。
── 卒業後の進路については当時どのように考えていましたか?
伊達山ポスドク研究員として研究を続けることと就職を両面で考えていました。そのころは、大学院での経験を通じて、教育という部分にも興味を持っていました。どのような環境でも、研究という場を通じて誰かの成長に関わること、誰かの「分かった!」「面白い!」を引き出したいと考えていました。キーワードとしては「サイエンスコミュニケーション」が近いと思います。
そこで「サイエンスコミュニケーション」という文脈で仕事がないか、興味のあるラボに挨拶や意見交換に行って可能性を模索したり、アメリカでも聞いて回ったりしたのですが、収穫がありませんでした。「サイエンスコミュニケーション」だけであれば博物館の学芸員なども検索結果に出てくるのですが、「サイエンスコミュニケーション・教育」「海外」「ゼロから創る」の3つを満たすものはなかなか見つかりませんでした。
他に可能性がありそうだと思ったのは、小学生向けの理科教材の企業です。教育の現場に出て開発に当たっての授業見学・ヒアリングをしたり、開発した教材の普及活動をしたりして常に教育現場と関わることができますし、研究開発の要素もあります。海外展開という点でも可能性の見込める業種だと考えていました。
── どのようなきっかけでリバネスという企業を見つけましたか?
伊達山リバネスに関しては、「サイエンスコミュニケーション」という文脈で企業を調べていた際、何度も挙がってきた企業でした。ただ「サイエンスコミュニケーション」「創る」という部分は希望に合致していましたが、はじめてリバネスを知った修士学生の頃は「海外」という点に関してあまり情報がなく、候補から外していました。その後、博士課程の修了間近になって再度を調べたところ海外事業展開の話があり、科学者として教育にも携わり、世界の発展に貢献するチャンスがありそうだと思って応募しました。
熱を持ってやり続けられる仕組みを「自分で創り出す」ことがリバネスで働くこと

── 現在の業務内容について教えてください。
伊達山一つは大学向けのトランスファラブルスキル研修プログラムを担当しています。研究をしている学生・大学院生を受講生としていて、どうやったら自分の研究に一般の方が興味を持ってもらえるか、どうやったら自分の研究を活かせる場を見つけられるか、といったことを一緒に考える研修プログラムです。他には、海外に進出する日本のテック系スタートアップ企業の支援も行っています。例えば日本の研究室では試薬は発注して翌日・数日で届きますが、これは非常に恵まれています。そのため海外でラボを立ち上げる際に、研究機材や試料が日本と同じように揃えられず苦労するケースが多くなりますし、モノだけでなく法規制の調査なども含めてサポートしています。それ以外には自社メディアの「学部・院生のための研究キャリア発見マガジン」であるincu・be (外部リンク)の企画・制作にも携わっています。
── 業務のやりがいや、面白いと感じる点を教えてください。
伊達山自分が関わることで少しでも価値を生み出せた、と感じる点でしょうか。とはいえ動けばすぐ結果が出るという単純な世界ではなく、毎日必死に動いて、時間をかけてようやく「ちょっと動いたかな?」という程度でしかありません。それでも自分が少しでも世界を変えられたという実感を持てています。
例を挙げると、大学院に居たときから、海外からの留学生が、日本語の壁で日本に就職できないことに問題意識を感じていました。入社時にリバネスで実現したいと考えていたことの一つとして、せっかく日本に興味をもって留学して来てくれたので、留学生が希望するなら日本で働くことができるチャンスを広げたいと考えていました。私個人で成果を出したとか、プロジェクトを通じて直接的に結果に繋がった、という訳ではないのですが、現在、支援している企業の中にマレーシア進出しようとしている企業があります。そのプロジェクトのために採用された元・留学生が、今、活躍しています。間接的ですし私自身の関与はわずかかも知れませんが、実現したいと思っていた世界に着実に貢献しているという感触があります。
── リバネスはどんな会社だと思いますか。
伊達山リバネスはアメーバみたいな会社だと思っています。時代の背景・タイミングや、そのときにいるメンバーの構成で、やれることの形がどんどん変わっていくことが魅力だと思います。リバネスは「本当にやりたいと思えることをやろう」という姿勢の会社です。誰もやったことがないことに挑戦できるので、結果として会社としてできることも変わっていくことができると考えています。
また社内の人間関係もいわゆる「上司/部下」ではなく、交渉の方法や進め方を工夫しながら、協力者を見つけて一緒に進めていく方法を模索し、プロジェクト成功のために働きかける文化があると思います。私が実現したいと考えているプロジェクトも、単独で新しく立ち上げるのは難しいですが、他のプロジェクトに一つの要素として取り込んでもらいながら、少しずつ進めるような工夫もできます。例えば、既存の大学での研修プログラムに海外メンバーを交え、海外支店を加えて提供する、といった具合に、既存のプロジェクトに新しいプラスアルファの価値を提供しながら幅を広げていくイメージです。
リバネスで働くには、どんな点でも良いのですが、自分で面白さを見つけられる人でないと壁にぶつかると思います。自由に発想して色々なことができる会社なので、逆に、自分が情熱を持って「やりたい」と思えることがないと、業務の目的や方向性を絞り込むことができません。ゼロからイチを生み出す考え方が必要なので、そういった働き方に共感できる人が向いていると思います。
── 一人ひとりの「熱」が事業を創り、会社を動かしていく、というのは素晴らしい組織ですね。興味深いお話、ありがとうございました。