社会で活躍する修士・博士・ポスドクのキャリアストーリー
アカデミアに根差した技術で気象災害・天候リスク評価モデルを開発する。SOMPOリスクマネジメントでデータアナリストとして働く

SOMPOリスクマネジメント株式会社は損害保険分野を中心とした各種リスクに関するコンサルティングサービスを提供しています。中でも気象災害・天候リスク分野では、風水災を中心とした気象災害や天候リスクの定量化に関する技術(リスク評価モデル)開発を行うとともに、その技術を用いたリスクファイナンス(保険や天候デリバティブ)商品の開発支援や関連する新たなビジネス・サービス開発を推進しています。

SOMPOリスクマネジメントにて、風水災を中心とした気象災害や天候リスクの評価を担当する稲村友彦氏と長野智絵氏の二名に、大学院時代の研究内容との関わりや業務の魅力について伺いました。

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稲村 友彦(Tomohiko Inamura)

SOMPOリスクマネジメント株式会社
アナリティクス本部 アナリティクス第1部
プロパティビジネスグループ グループリーダー

長野 智絵(Chie Chono)

SOMPOリスクマネジメント株式会社
アナリティクス本部 アナリティクス第1部
プロパティビジネスグループ 上級研究員

大気や地下水に関連する物理現象の数値シミュレーションが専門分野

── まず、大学院での研究内容やそれを選んだ理由について教えてください。

稲村小中学校のころにニュースや授業などで触れた環境問題に興味を持ち、東京都立大学の地理学科に入学しました。地理学科は大きく地形・地質、気候・水文、人文地理という三つに方向性が分かれます。その中でも当初の興味である環境問題に最も関係する気候に関連する分野で、気象モデルの数値シミュレーションを用いた研究を行なっている研究室があったので、そこを選択しました。研究内容は、ヒートアイランド現象のような人間の活動がゲリラ豪雨の増加をもたらしているという仮説・メカニズムの検証や、一部地域で大麦の倒伏など農業への被害をもたらす「まつぼり風」のメカニズムなど、人間の活動と気象現象の関りについて研究していました。

内容は主に気象シミュレーションを行うものですが、難しい点として、シミュレーションに用いるパラメーター設定のチューニングがあります。気象シミュレーションは、基本的には大気の動きについて運動方程式を解いていく形になるのですが、その構成要素として多くのサブモデルがあり、とても複雑な構造をしています。具体的には空間をメッシュに分解して大気の計算をしますが、当時は計算機の性能の問題から空間分解能を高めることができず、メッシュより細かい現象については統計モデルとしてパラメーターを設定して現象を表現します。このパラメーター設定のチューニングが非常に複雑で難しく、学会をはじめ大学内外の様々な方々に助言を仰ぎながら進めていきました。ただそれも含めて楽しんでやっていたので、つらかったということはなかったです。

長野私は大学院までに段々と興味分野を見定めていった形です。小さいころから自然科学が好きで、高校生の頃に農業への関心が高くなり、大学では農学部に進学しました。物理が得意だったので、農学の中でも工学寄りの農業工学という分野に進み、水の流れをシミュレーションできるという点に興味を惹かれて、水理・水文分野の研究室を選択しました。

大学院での研究テーマは、農業が地下水環境に及ぼす影響をシミュレーションを通して研究するという内容です。地下水のシミュレーションにおいて一番大きなポイントは、直接観測できないことです。地下の見えない地質の層がどう重なっているかなどを地上の把握可能なデータから推定し、パラメーターを調整してシミュレーション結果を検討することの繰り返しです。加えてシミュレーションの解となるデータや、農作業でどのように水を使われているかといった調査が必要なので、フィールドワークも並行して行っていました。とくに水稲の作付期間は最も水を使用するため、毎週のように農地に行って調査をしていました。体力面は大変でしたが、広々とした水田の中を歩き回ることを楽しんでいました。

アカデミアと民間就職を並行して検討する中で、想定もしなかった損害保険分野へ就職

── 卒業後の進路については当時どのように考えていましたか?

稲村博士前期(修士)課程でも就職活動はしていましたが、日本学術振興会の特別研究員(DC1)に採用されたら博士後期課程に進学しようと決めていました。そして博士進学し、修了時にも同じく特別研究員(PD)に採用されたらアカデミアに進むつもりでした。その中で、たまたま当社の人材募集を見つけました。内容に、台風や洪水などのシミュレーション技術の開発と記載されており、私は気象シミュレーションを扱っていたので、研究内容を活かせる仕事だと考えて応募したのがきっかけです。アカデミアでのポストを探してはいたものの、実はアカデミアでのキャリアには漠然とした不安を持っていて、民間企業に就職したいという気持ちの方が強かったです。学会などで研究者の方と交流する中で圧倒され、自分がアカデミアで研究者として生きていけるレベルに達することができるのかという不安や、パーマネントの職を得るまでに数年で業績を上げて次のポストに応募する不安定さに対する不安を抱いていました。ただ一方で、民間就職するにしても、自身の専門知識を活かすような就職の仕方が分からなかったというのが正直なところで、偶然当社の求人を見つけ、専門分野を活かした就職をすることができました。

長野私も修士課程の時に就職活動をしており、研究者になりたい気持ちもありつつ民間企業もずっと視野にありました。大学院在籍中に気象予報士の資格を取得し気象関係の企業への就職も考えていましたが、ポスドク研究員に採用されたので、博士修了後はそちらに進みました。ポスドク研究員での研究内容は、大学院で扱っていたテーマに近いもので楽しかったのですが、研究プロジェクトが終わると任期が切れ、次のポストへ移らなければならないという不安定さがネックだと感じていて、どこかのタイミングで民間就職をすることを意識していました。その中で私も、台風や洪水などのシミュレーション技術の開発に関する当社の求人を発見し、研究内容を活かせるのではと考えて応募しました。

── お二人とも、研究していた分野に隣接する、専門知識を活かすことのできる業務ですね。以前からSOMPOリスクマネジメントという会社や損害保険分野を意識されていたのでしょうか?

稲村いえ、SOMPOリスクマネジメントを知る前は、保険会社が気象災害に関する分析や技術開発を行なっているということをまったく知らず、金融分野や保険会社に就職しようとは考えたこともありませんでした。募集を最初に見た時には驚いたというのが正直なところです。確かに学生時代には一人暮らしをしていましたので家財の火災保険に加入していましたが、台風や洪水が補償対象かどうかや、それらのリスクをどう評価して商品になっているかなど気にもしていませんでした。
実際に入社してみて、台風の物理・統計的なモデリング手法や洪水氾濫シミュレーションの技術など、アカデミアの知見がビジネスに活かされており、こういった技術に裏付けされた数値や情報に基づいて保険会社の意思決定がなされているという点に責任感や面白さを感じました。

風水災関連のリスクを特定・定量化するモデルや分析技術の開発を担当

── SOMPOリスクマネジメントという企業や、現在の業務内容について教えてください。

稲村当社はSOMPOグループの一員で、リスクコンサルティング会社として企業のリスクマネジメントに関する取り組みを支援するサービスを提供しています。コンサルティングの対象は自然災害リスクやサイバーリスクをはじめ、ERM(全社的リスクマネジメント)やBCP(事業継続計画)の構築支援など多岐にわたり、企業が直面する多様なリスクに対応しています。
その中で、私と長野は自然災害、特に風水災関連のリスク評価に関する研究・技術開発を担当するプロパティビジネスグループという部署に所属しています。台風や洪水、高潮、雪などの気象災害・天候リスクを対象とし、これらの自然災害リスクを定量化する分析モデルを開発しています。また、研究開発だけでなく、開発したモデルを用いた分析業務も担当しており、主に損保ジャパンをはじめとしたSOMPOグループ内の保険会社向けに、保険集積リスクの分析や大口の損害保険契約に関する分析を実施し、レポートとして提供しています。
自然災害リスクは火災や自動車事故と異なり、一度のイベントで巨額の保険金のお支払いが発生するため、保険会社にとって最も注意すべきリスクのひとつとなっています。我々の技術は、保険会社が自然災害リスクを管理・コントロールするための基礎情報や個別の保険契約の引受判断、保険料率の算定のための情報として活用されています。
さらに最近では、保険実務における我々の技術の活用範囲が広がっています。分かりやすい例として、台風や洪水等の災害発生が予測される場合、あるいは発災直後における被害推定技術の開発があります。具体的には当社の台風リスク評価モデルを用いたリアルタイム被害推定技術やSNSを活用した浸水範囲の特定技術の確立を目指しています。これらの技術はお客さまへの保険金支払いの迅速化に役立てることを目的としています。災害が発生する前、あるいは発災直後にどこでどの程度の被害が発生する可能性があるか把握することができれば、人員や機材について事前に手配することが可能になり、お客様に迅速に保険金をお届けすることにつながります。

── 業務のやりがいや、面白いと感じる点を教えてください。

長野個別の損害保険契約に対するリスク評価や、気象災害・天候リスクに対する新商品の開発といった業務は、案件ごとに個別性が高いものになります。例えば天候デリバティブの設計では、保険金支払のトリガーとなる指標や閾値の設定方法や、支払条件をどう設計すべきかといった課題があり、個々の案件に応じた問題解決をしていく面白さがあると思います。

また当社は、研究機関との連携を通じて、しっかりとしたアカデミアの知見に基づいて技術開発を行うことに力を入れています。洪水モデル開発に関しては京都大学、神戸大学の先生と長期に渡って共同研究を行っていますし、気候変動リスク評価に関しては筑波大学の先生と継続的に議論しながら技術開発を行っています。私たちの仕事は、最先端の研究を行うものではありませんが、最先端の研究成果を自社の業務にどう利用できるかを常に考え実装していくところに楽しさがあると思います。
先ほど話に挙がったような保険実務への技術活用や、SOMPOグループ以外のお客様に向けたサービス展開など、現在は業務の幅が徐々に拡大しています。今後も、新たに取り組むべき課題や技術の幅がさらに広がっていくと考えていて、新しいことにどんどんチャレンジできる環境も魅力だと思っています。

アカデミアの技術と、ビジネス・社会との橋渡し役になる

── 業務を通じて今後実現していきたいことや、将来像について教えてください。

長野業務の幅が広がっているというのは先述の通りですが、その中で技術的に対応しきれずにお断りしなければならない案件があるのも事実です。そのようなニーズに応えるため、基礎的な技術開発を通じて対応力を高めていきたいと考えています。例えば、稲村が述べた台風接近時の風水災リスク予測レポートはグループ内部向けですが、高い信頼性を備えて適切に扱えば、グループ外にも提供することにより早期避難などの防災・減災対策に役立つはずです。保険金支払いで災害の「事後に」役立つという単純な損害保険会社の枠を超えて、「事前に」防災・減災に資するようなサービスをもっと提供していきたい、そのために自身の知見や技術力を向上させて貢献していきたいと考えています。

── 最後に、入社を希望する人に求めることやメッセージなどがあればお願いします。

稲村最前線で研究を行ってきた博士後期課程出身の方には、アカデミアと民間を繋ぐという位置づけも意識してほしいと思います。私はアカデミアでのキャリアを諦めた部分がありますが、博士課程での研究を通じて得た知識・経験は民間企業の中では稀有なもので、民間企業での研究成果の活用を進め、研究者と民間企業の橋渡しすることで付加価値を発揮できると考えています。今後、民間企業の中でもアカデミアの知見や人材が存在感を増していくことを個人的に期待していますし、アカデミアと社会の接点となる仕事を探してみてほしいと思います。研究は自分が楽しいということが一番重要だとは思いますが、そこに満足せず、自分の研究を社会にどう還元するかに意識を持ってほしいですし、それが当社と一致すればぜひ応募してきてほしいと思います。

長野自分の研究と社会との接点を探して、民間企業での就職を検討してみてほしいという考えは同じです。加えて研究と異なる点として、自分の専門分野の周辺知識や、まったく違う分野の知見、その業界固有の知識など、幅広い分野に興味を持って積極的に取り組んでもらえるような方にぜひ応募してきてほしいと思います。また、研究成果は筆頭著者として論文を出すことが重要だと思いますが、民間企業の業務は常にチームで行い、チームとして成果を上げることが求められます。お互いの得意分野を活かし、苦手なことは助け合いながら成果を出す、そういったチームでの働き方に共感できる方はきっと民間企業での就職に向いていると思いますので、ぜひ検討してほしいと思います。

── 自分の研究と社会の接点として民間企業を位置づけ、自分の専門を活かせる業務を探す、というのは重要なポイントですね。興味深いお話、ありがとうございました。

修士・博士・ポスドクのキャリア支援サイト
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稲村 友彦(Tomohiko Inamura)

SOMPOリスクマネジメント株式会社
アナリティクス本部 アナリティクス第1部
プロパティビジネスグループ グループリーダー

2013年3月、首都大学東京(現 東京都立大学)大学院 都市環境科学研究科 博士後期課程修了(博士)。専門は局地気候と気象シミュレーション。博士論文のテーマは、局地風の吹走メカニズムの解明と気候変動が局地風の発生に及ぼす影響に関する研究。
2013年4月よりSOMPOリスクマネジメントに入社。台風のリスク評価モデル開発を中心として、保険会社の集積リスク評価、大口案件のリスク評価等の保険業務支援を担当。2021年4月より、プロパティビジネスグループのグループリーダーとして主に台風や洪水、高潮、雪などの気象災害に関する技術開発を担う。

長野 智絵(Chie Chono)

SOMPOリスクマネジメント株式会社
アナリティクス本部 アナリティクス第1部
プロパティビジネスグループ 上級研究員

2012年3月、京都大学大学院 農学研究科博士後期課程修了(博士)。専門は水理・水文シミュレーション。博士論文のテーマは、統計的手法とモデルを用いた農業流域における水理・水文環境の解析。
人間文化研究機構 総合地球環境学研究所のプロジェクト研究員を経て、2013年12月にSOMPOリスクマネジメントに入社。洪水リスク評価モデル開発をはじめとする気象災害に関するリスク評価技術の開発や保険業務支援を担当。